ビルメンテナンス現場の「動画を撮るだけ」でマニュアル作成時間を大幅削減。DXで暗黙知が組織資産に変わる

会社名 三井不動産株式会社
業 種 不動産
従業員数 1,928名(単体,2025年3月時点)

導入の背景

【大量の設備マニュアルが存在】
管理対象の建物は数百棟以上に及び、1棟あたり100種類を超える設備マニュアルが存在していた。そのため、管理や更新にかかる業務負担が懸念されていた。

【「暗黙知」が多く、業務が属人化される】
ベテランだけが把握しているノウハウがマニュアルに十分反映されず、「暗黙知」として残っていた。そのため業務が属人化し、将来的な対応に支障が生じる可能性があった。

導入の効果

【マニュアル作成時間が最大50%削減見込み】
5名の作業者にトライアルを依頼したところ、マニュアル作成時間についてタスクにより最大50%の削減が見込めるとの試算ができた。

【現場の作業者からもポジティブな反応が】
「マニュアル作成時間が短くなった」「使い方も分かりやすかった」など、業務効率化への期待を寄せるコメントが多かった。運用管理領域での実用性が検証できれば、他の事業領域への展開も模索していく予定。

目次

現場の課題解決に向け、マルチモーダルAIを活用したい

三井不動産株式会社 ビルディング本部 東京中央オフィス 木口 寛士氏

 

───三井不動産と言えば、大規模ビルや商業施設、オフィスビルなどさまざまな建物を管理されています。どのような課題を感じていたのでしょうか?

木口氏:

私たちの部署は基本的にオフィスビルの設備管理を担当しています。そのため、建物の設備に関するマニュアルが多数存在しており、その管理体制が課題となっていました。

例えば同じ設備でも日常点検、月次点検、年次点検などで点検項目が異なるためマニュアルが分かれます。さらに点検以外でも空調機などの設定方法、ドアなどの建具やトイレなどの衛生器具の交換方法、災害対策マニュアルなど、多くのマニュアルがあります。

さらにオフィス、ホテル、商業施設などが1棟に集結している複合用途のビルでは、空調機の分類でも機種やメンテナンス方法がそれぞれ異なります。その結果、マニュアルが大量に増えていく状況があります。

 

───さらに増えていくとなると、管理体制や内容の更新にも大きな負担がかかりそうですね。

木口氏:

そうですね。中でもマニュアルに記載されている内容が「属人化」してしまう点は、大きな問題でした。ベテランなら誰もが知っているあたりまえの「暗黙知」がマニュアルに反映されておらず、口頭で伝えるだけになっている情報があることが課題でした。

上井氏:

一度経験すれば理解できることでも、初めて対応する人にとっては判断に迷う場面があります。こうした「経験すれば分かるノウハウ」が文書化されず、口頭で引き継がれているのが現状です。

例えば、あるビルでは機械室に入る際、気圧差の影響で扉を開けるのに強い力が必要でした。しかし、このような現場特有のノウハウは、点検作業手順書には記載されていませんでした。ベテランは当然のように強く扉を引いていましたが、手順書には「扉を開ける」という工程自体が明記されていなかったのです。つまり、一見当たり前に見える動作にも、「この扉は強い力で引く必要がある」という暗黙知が含まれていました。

一方、マニュアル作成には、作業状況を写真で記録し、手順書として整理する手間がかかります。そのため、実際には作業手順だけを簡潔に記載したマニュアルになりやすく、新任者だけでは作業を完結できない場面が残っていたことが課題でした。

 

 ───そうした課題を、どのように解決したいと考えていたのでしょうか?

上井氏:

ベテランが持つノウハウを「組織の資産」として残し、マニュアル作成をより簡略化したいと考えていました。

私たちは現在、将来的な労働人口不足に備え、1つの管理チームが複数のビルを管理する「エリア一体管理」に取り組もうとしています。担当者が複数棟の作業をシフトで担うため、頻度の低い点検などでは、細かなコツを記録し、組織として対応できる体制を整える必要があります。

そのため、マニュアルを適切に整備・管理し、経験の浅い作業者でも対応できる仕組みづくりを進める必要がありました。

 

「暗黙知の形式知化」に共感し、 COROKOをPoC対象に選定

三井不動産株式会社 ビルディング本部 運営企画一部 企画グループ エンジニアリングリーダー 上井 公介氏

 

───COROKOをPoC(実証実験)の対象として選んだ理由を教えてください。

木口氏:

COROKOのコンセプトは「暗黙知の形式知化」。まさに私たちが求めていたことでした。AIによって自動で文章生成ができるという点も、「作成の負担を軽減したい」というニーズにあっていると感じて選びました。

他社のサービスも含めて「暗黙知を言語化できるツール」を探しましたが、”現場の作業”にフォーカスしたサービスを展開している企業は少ないと感じています。COROKOならば操作も簡単で、リアルな現場でも活用しやすいだろうと判断しました。

 

───「AIを活用したサービス」であることにも、評価いただいたのですね。PoC実施にあたり、特に注視したポイントはありましたか?

木口氏:

実施前に「マニュアル作成をする上で、何が一番大変か?」と現場の作業者に聞いたところ、「文章を手で打ち込むこと」との声が多く上がりました。そうした「負担感の解消」については、注視したいと思っていました。

COROKOには映像・音声・テキストを統合し、現場の文脈を理解するマルチモーダルAIの仕組みが反映されています。これまでベテラン社員が当たり前に行っていた動作やノウハウも、AIが動画から読み取って言語化してくれるかもと期待していました。

 

作業者が自らPoCを実施し、操作性を確認

───具体的には、どのような形でPoCをスタートされたのでしょうか?

木口氏:

対象物件として選定したのは日本橋一丁目三井ビルです。当ビルは新技術を積極的に試すパイロット物件でもあります。

今回は5名の作業者にメンテナンス業務の撮影、マニュアル生成、アンケート回答を依頼しました。撮影対象は、すでにマニュアルがある作業を対象としました。COROKOを活用してマニュアルを再作成し、次の3つの観点から検証をしました。

  • AIを活用して、実際に“使える”レベルのマニュアルが作成できるか
  • 既存のマニュアル作成と比較し、工数がどれだけ削減できるか
  • 現場の作業者が使いこなせる操作性かどうか

終了後は作業者にアンケートを取り、使い勝手や精度に関するフィードバックも収集しました。

 

───実際にCOROKOを使っていただいた作業者の方々の反応はいかがでしたか?

木口氏:

ポジティブな意見として一番多かったのは「AIが文章を自動出力してくれるため、マニュアル作成時間が大幅に短縮された」という声です。操作性についても「現場作業者でも使いやすい」との評価をいただきました。

 

トライアルによって見えてきた効果と改善点

───最終的なPoCの結果について教えてください。

■ PoCの成果サマリ

マニュアル作成時間 最大約50%削減(※)

タスクの内容に応じて、作成時間が半分以下に減少した。

作業者の満足度 5名中2名が満足、1名がやや満足。

※「最大50%削減」は見込みの試算値であり、確定した効果値ではありません。

 

木口氏:

資料作成時間については最大50%程度の削減が見込めるという試算が出ました。具体的には、元々1時間ほどかかっていた作業が、シンプルなタスクでは約5分で完了するケースも出てきました。AIが生成したマニュアルで最終チェックだけすればよいという場面では、大幅な効率化を実感できました。

 

───COROKOの使用にあたって、改善が必要な点はありましたか?

木口氏:

作業とは関係のない会話や、移動中の様子も重要な情報と認識されてしまい、マニュアルとして出力されていた点です。

おそらく性能が高いゆえに、不要な情報まで拾ってしまったのだと思います。こうした情報の粒度をコントロールできるかどうかは、今後の導入に向けた重要な改善ポイントです。

また、マニュアルに書かれているステップ数が想定より多く、「ここまで細かく書かなくても十分伝わる」と作業者が感じる場面もあったそうです。現場で使っていただくものですから、適切なアウトプットを引き出すためのチューニングが必要だと分かりました。

さらにスマートフォンで撮影しているため、騒音環境への対策も考えていかなければなりません。今回は比較的静かな場所での作業が中心だったため問題ありませんでしたが、大型ファンやモーターのすぐ側で作業をする可能性もあります。音声認識の精度を維持しながら撮影をする工夫も、必要になるでしょう。

 

───そうした要望を受け、すでに改善された機能もあるそうですね。

木口氏:

はい。現場の設備付近にQRコードを貼り付けておき、スキャンしただけですぐに該当するマニュアルにアクセスできるようにしていただきました。マニュアルを探す手間が軽減され現場活用に大きな効果を発揮するのではないかと期待しています。

加えて、電波が不安定な地下の機械室などでも使えるよう、オフライン対応用の動画マニュアルをダウンロードできるようにしていただきました。

すぐに実装に向けて動いてくださるので、非常に心強いです。

三井不動産株式会社 DX本部 AI戦略室 エンジニアリングリーダー 久光 貫太氏

 

グループ全体の業務効率化につながる可能性を実感

三井不動産 木口氏、BrainPad AAA CEO辻、ブレインパッド片山

 

───PoCを終えてみて、いかがでしたか?

木口氏:

まずはクイック&スモールに行った本検証ですが、COROKOのAIエージェントの仕組みは想定よりも高性能だと分かりました。この結果を踏まえて、実導入に向けた動きを本格化したいです。削減時間も大幅に短縮され、期待していた効果を実感できました。導入すれば、着実に省力化できそうだと期待しています。

上井氏:

AIが「現場で働く人同士にしか分からない文脈」を読み取り、動画からマニュアルを自動作成することで、マニュアル作成業務を省力化できることが分かりました。

今回のPoCでは、比較的簡易な作業を対象に既存マニュアルと比較しました。今後は、より複雑な作業や暗黙知が含まれる領域にも適用し、COROKOでどこまで対応できるかを共に検証していきたいと考えています。

また、当社と同様にノウハウの蓄積や現場マニュアルの整備に取り組みたい企業・部署とも、相性が良いサービスだと感じています。

久光氏:

今回のPoCを通じて、マニュアル作成業務における生成AI活用の有用性を強く実感しました。特に、作成効率の向上や品質の均一化といった点で大きな可能性を感じています。

次のステップとしては、COROKOが作成したマニュアルを実際の現場で活用し、実運用に耐えうる品質や実効性を備えているかについて、前向きに検証していきたいです。

また、今回ビルディング本部での取り組みで得られた知見は、不動産グループ全体へ横展開できる可能性を秘めています。今後は他部門への拡大も視野に入れながら、生成AI活用のさらなる価値創出につなげていきたいと考えています

 

 

※登場人物の所属先、肩書はいずれも取材当時のものです。

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